「女神よ」

マスターの声に、美奈子はコーヒーカップを持つ手を止めた。

ここは、喫茶店。

しかし、あるものが、目覚めた者しか来ることのできない場所。

アルテミア達との戦いでダメージを受けた美奈子は、疲れを癒す為にここに来ていた。

カウンターに座り、ゆっくりと一杯目を楽しんだ後のおかわりが、目の前に来た時…マスターが口を開いたのだ。

「何だ?」

美奈子は、コーヒーカップを置いた。

「近頃…目覚める者が、多くなっているようです。恐らく、この世界の危機に対応して」

「で、どうしているんだ?」

美奈子は、上目遣いでマスターを見上げた。

「初期段階は、わかりませんが、ある程度まで目覚めた者は保護しております」

マスターは、じっと美奈子の目を見つめていた。

「フッ」

美奈子は視線を外すと、コーヒーカップを手に持ち、一口啜ってから、言葉を続けた。

「で、どうしたい?」

美奈子の問いかけに、マスターは即答した。

「あなたの力をお借りしたい」

「しかし…新しい神は、できたはすだが?」

「!」

美奈子の言葉に、マスターは目を見開いた後に、顔をしかめた。

「あれは、我々が求める神ではありません。人工的、作為的な神です!我々が求めるのは」
「あたしは、無理だ」

美奈子は、マスターの言葉を遮った。

「め、女神!」

「だけど、目覚め始めた人達のケアはしなければならない。そのホローはする」

美奈子は、コーヒーを飲み干すと、カウンターを立った。

「女神!」

まだ何か言おうとするマスターの前に、美奈子はお金を置いた。

「ご馳走様」

そして、マスターに微笑むと、カウンターから離れ、店を出た。

「部長」

店を出るとすぐに、麗菜の声が頭に響いた。

「女神になってる暇はない」

美奈子は、真っ直ぐに前を見つめ、

「それに…その前に、この世界をどうにかするぞ」

そのまま…町の雑踏の中に紛れていった。

振り返ることなく。

もし、振り返ったとしても…喫茶店を見つけることはできないであろう。