「い!」

その人間離れした浅田の力に、上司は目を丸くした。

「…」

浅田は黙々と仕事を続けながら、頭の中ではラジオから聞こえてくる歌声に、耳を傾けていた。

(あり得ない…。世界が崩壊するなんて)

浅田の顔は、いつのまにか強張っていた。




「キイキイ!」

戦闘員が暴れ回る学園内で、ただ1人逃げることもなく携帯を弄っていた花町蒔絵は、メールを打つ手を止めた。

少し携帯が震え、着信を伝えた。

着信音は、レダの曲だった。

「はい」

蒔絵は携帯に出ると、

「今は学校。別に変わったことはないけど」

普通に会話を始めた。

「キイ!キイ!」

戦闘員が、周りで暴れているのにだ。



「そう」

蒔絵に電話をかけてきたのは、女だった。

「それは、つまらないわね」

女は、残念そうにこたえると、携帯を切った。

その眼下には、大月学園があった。

学園の遥か上空に浮かぶ女には、そこにいるすべてのものの存在を理解していた。

「本当…残念だわ」

女は携帯をしまうと、マッチの火のように一瞬で空から消えた。




「人はね」

白人の男は、新しい煙草に火を点けた。

「火を使い、この世界に頂点に立ったその時から繁栄が始まったが…崩壊も始まっていたのさ」

白人の男は、煙を吐き出し、

「考えてもみろよ。人間ごときに、火を扱えるはずがない。いずれ…己も灰になるのさ」

火の点いた煙草を投げ捨てた。

「それは困りますね」

隣にいる男は笑うと、

「燃え尽きるだけなんて…今までの人の罪を精算するには軽る過ぎますよ。もっと絶望してからでないと」

周りの町並みを目だけで見回した。

「せめて…この世界が崩れて更地にならないと」

その笑いは、いつのまにか冷笑に変わっていた。