「今日も…進展がなかったな」

リビングで、新聞を広げると、香坂真琴はため息をついた。

「お姉ちゃん!何て格好を!」

二階から下りてきた姫百合が見たものは、下着姿でソファーにもたれる姉の姿であった。

「別にいいだろう?」

香坂真琴は、新聞から顔を覗かせた。

「そうだ。構わんよ」

香坂真琴の前に、テーブルを挟んで父親がいた。

「お、お父さん!?」

「フッ」

父親は煙草をふかすと、天井を見つめ、

「ただ…娘の成長に、感動しているだけだ!」

拳を握り締めた。

「そうだぞ。姫。気にするな。風呂上がりは、楽にするものだ」

新聞を下ろした真琴の胸を見て、姫百合はたじろいだ。

「そうだ。姫百合も」

笑顔を向けた父親に向かって、姫百合は座布団を投げた。

「変態親父が!」

リビングを抜けて、キッチンにいくと、笑っている母親がいた。

「あんなパパで、ごめんね」

母親は笑いながら、謝った。

しかし、その母親の胸を見て、また姫百合はたじろいだ。

(こ、この家系は!)

気を取り直し、姫百合は母親に訊いてみた。

「ママ…。確か、おばあちゃんは、外国人と結婚したんだよね?」

いきなりの姫百合の質問に、母親は首を捻り、

「ああっ!あたしのお母さんね」

思いだしたように頷き、テーブルに置いた急須から湯飲みにお茶を入れながら、言葉を続けた。

「最初の旦那さんが、外国の方で…子供ができて、すぐに亡くなったそうよ。あたしは、その次の旦那さんが…つまり、あなたのお爺ちゃんとの間に、できた子供よ」

「じゃあ!前の旦那さんの子供は?」

姫百合は、人数分のお茶を入れ終わった母親に向かって、テーブルから身を乗り出した。

「残念なことに、行方不明になったそうなの。戦後の混乱に紛れてね。随分、探したそうだけど…」

母親は、お盆に湯飲みを置いた。

「結局、見つからずに…。旦那と子供を失ったショックから、おばあちゃんが立ち直るに時間がかかったそうよ。あたしの父親に出会うまでね」