「つまらないよな」

ライブ会場で、警備のアルバイトについていた男は、大欠伸をした。

会場内で熱狂する人々を見つめ、

「みんな…。生きてるんだもん」

腹を擦った。

すると、腹の虫が鳴いた。

俺は、空腹だった。

人としての食事はしていた。

しかし…己としての食事は、長いことしていなかった。

(こんなに人がいるんだから〜1人くらい)

男の目が忙しなく動き、会場内をチェックするが、倒れている人間はいない。

牛や鶏を見て、すぐに食欲がわく人間は少ない。

彼もまた、そうだった。

「藤崎くん」

そんな彼の後ろから、呼ぶ声がした。

「はい」

作り笑顔で振り返った男の前に、紺の制服を着た若い男が駆け寄ってきた。

「ここはいいから、裏口の子と交代してくれるかい」

制服の男の言葉に、藤崎は笑顔で頷いた。

「はい」





「まったく〜お嬢様という割には、単独行動が多いな。まあ〜それの方の有難いけど」

通路を歩く俺は、頭をかいた。

女の肉体ってのには、慣れて来たけども、長い髪がうっとおしかった。

それに、男の体とバランスが違った。

改めて、誰もいない通路を1人で歩いていると、変なことが気になってきた。

着替えや入浴時は目隠しをされ、猫沢がすべてやっていっていた。

そう…俺は、見たことも触ったこともない。

(太陽様の為に傷付いたなら)

そんな時に、茉莉の笑顔が浮かんだ。

(わたくしと太陽様は、一心同体)

「うわああっ!」

俺は、頭を抱えた。

そんなことを思い出す理由は、一つだった。

今からしたいことへの罪悪感を拭うことである。

(お、俺は…勇者赤星浩一…)

と考えてから、自らの胸元を見下ろし、

(違う!)

否定した。

(赤星浩一は、今!ブルーワールドにいてるんだ)

屋敷にいても、常に監視され、1人ではない。

(やるなら、今しかない!)

俺は、己を捨てた。