「開八神さん」

俺は敢えて、名字で呼んだ。

その瞬間、不満げに口を尖らせた茉莉を無視して、俺は訊いた。

「どうして、体を入れ換えた?」
「そんなことよりも、先程の女は誰ですか?」

俺の言葉を遮ると、茉莉は微笑みかけた。

しかし、目は笑っていない。

「?」

思わず、茉莉の瞳の奥を覗いた俺は、絶句した。

そのさらに奥に、何かとてもない力を感じたからだ。

「単なるお友達でしたら、今回は許します。だけど、わたしくし以外の女と話すことは承知致しかねます」

「な!」

一瞬、言葉を失ったが、気を取り直して、俺は言った。

「お、女にされたのに!女と喋るなは無理があるだろうが!男とだけ話せというのか!この学園で!」

思わず力が入ってしまった。

そんな俺を、目を見開いて見つめた茉莉は、開いた手を口に当て、

「そう言われれば、そうですね」

驚いた顔を作ってから、改めて言った。

「ですが、できる限り女と話すことは…」

強い表情で、真っ直ぐ俺を見つめながら近付いてくると突然、俺の手を取った。

「!」

その行動に、今度は俺が、驚いた。

「傷だらけの手…」

茉莉は、俺の手の甲を見つめ、呟くように言った。

「ご、ごめん」

俺は、素直に謝った。

よく考えれば、この体は茉莉のものである。

戦い続きで、いつのまにか傷だらけになっていた。

お肌のケアもしていない。

髪や身だしなみは、御付きの人がやってくれているが…。

痛いところをつかれて、俺は何も言えなくなってしまった。

しかし、そんな俺に、茉莉は微笑んだ。

「よろしいのですよ。わたしくしの体が、太陽様の為に傷付いても…。一向に、構いません」

その言葉に、俺はさらに何も言えなくなった。

「なぜなら…わたしくしと太陽様は一心同体。この体も、太陽様の為に傷付いたのならば、本望ですわ」

傷付いた手を見ながら、うっとりとした表情を浮かべる茉莉に、俺はぞっとした。