「あ、あたしは!」

桃子は一瞬、乙女ケースを返そうとしたが…思い止まり、

「変身はしませんが、返しません」

慌てて背を向けると、走り出した。

「ありゃ」

そんな3人の行動を見て、里奈はため息をついた。

「やはり…。何があるかわからない。月の様子を気にしながら、戦うしかないな」

九鬼は、理香子の隣で月を見上げた。

「真弓…」

理香子は、そんな九鬼の横顔を見つめた。

「…」

蒔絵はずっと携帯をいじっていたが、静かに歩き出した。

「まあ〜何とかなるさ!」

先日の騒動を知らない里奈は、背伸びをすると、夏希の腕を取り、愛想笑いを浮かべながら、理香子達から離れた。

「気をつけるからさ」

里奈はそう言うと、みんなの後に続いた。

「待って!危険なの!ほんとに!」

彼女達の後を追おうとする理香子を、九鬼が腕を横に伸ばして制した。

「みんな、覚悟をしている」

「ま、真弓?」

「それに、同じへまはしない。しかし、それでも…気になるなら」

九鬼の伸ばした手の中には、シルバーの乙女ケースがあった。

「返すが」

微笑んだ九鬼を見て、理香子は溜め息をつき、肩を落とした。

「あんたは、いいよのね。あなたの力は、特別だから…」

もう一度、溜め息をつくと、理香子は追うのを止めた。

「女神」

それまで無言だった高坂は、理香子を見つめ、

「俺もこいつが必要だ」

ダイヤモンドの乙女ケースを示した。

「まったく〜もおっ!」

苛立ちが頂点に来た理香子であるが、内心は嬉しかった。

みんな、あんな目に合ったのに、戦うつもりだからだ。

「一つ…教えてくれないか?」

高坂は乙女ケースを握り締めると、理香子を見据え、

「女神である貴女を、閉じ込めることができる程の相手とは、一体…誰なんだ」

質問した。

しかし、その答えを…理香子は持っていなかった。

「わからない…」

「え」

驚く高坂に、理香子は言葉を続けた。

「ただわかっているのは、それほど…恐ろしい相手ということよ」