「やつらの気を感じた。それに、空間に結界を張った痕跡も残っている」

サーシャの言葉に、廊下に立ち尽くすフレアは頷いた。

九鬼達は反対側から、校舎を出た為に、廊下にはいなかった。

「闇の波動…。だけど、ブルーワールドの闇とは異なる」

フレアの分析に、サーシャも頷いた。

「そして…闇と言っても、魔物のものとは違う。人間の気に近い?」

フレアは、元に戻った廊下の空間に手を伸ばし、手では掴めないものを掴もうとした。

「闇に堕ちた人間。あたしは、それに近いと思う。戦いの中で、恐怖から狂う者もいた…。そんなやつらから感じる狂気に近い」

不快な空気は、まだ廊下に漂っているような気がした。

腕を伸ばしているフレアの横を通り過ぎるて、サーシャは廊下の真ん中に立った。

「人は闇を畏れる。しかし、狂った人間には関係ないか。やつらは…闇を従えている」

「…」

フレアは、伸ばしていた手をぎゅっと握り締めると、腕を下ろし、口を開いた。

「あたしには、人間の思考はわからない。だけど…御姉様が言っていたわ。人間は、本能を失った…狂った生き物だと。だから、敵わないあたし達に歯向かってくると」

「それは、違うな」

フレアの首筋に、ドラゴンキラーの切っ先が差し込まれた。

「生きる為だ」

一瞬で間合いを詰めたサーシャは、フレアの横顔を睨み付けた。

「そうね」

フレアはフッと笑うと、一瞬だけ体が炎に変わった。

喉元に突き付けられたドラゴンキラーを、そのまま通り過ぎると、再び人間の肌に戻り、ゆっくりと振り返った。

「だけど…狂った生物が、正しい判断ができるのかしら?」

「人は、ただ生きるだけじゃない!時には、自分を犠牲にしてでも、誰かを守る時がある!どうにかして、自分一人でも生き残るのが本能だというならば、人間は本能が壊れていてもいい。自分を犠牲にしても、他者が残ればいいと思い、行動する!それこそが、人だ!」

「そうね」

サーシャの叫びに、フレアは前を向くと、目を瞑った。

瞼の裏に、倒れた赤星浩一と、彼を殺そうとする魔王レイの姿がよみがえる。