「!?」

男の突進がいきなり止まると、床に片膝をつけた。

女子生徒は、そのまま倒れている里奈のもとに行くと、彼女を抱き上げた。

「そうか…」

男は口許を緩め、

「嫌いな臭いに…闇の臭いと血の臭いが混じっている。あんた…。こっち側だね」

振り返り、里奈を抱き抱える女子生徒の後ろ姿を見つめた。

「何者だい?」

男の胸元が裂けており、そこからポタポタと血が滴り落ちていた。

「名乗る名はない」

「へえ〜」

男はもう片方の膝も、床につけた。

「敢えて…名乗るなら」

女子生徒は歩き出した。

「闇夜の刃だ」

「へえ〜。覚えておくよ」

男はそのまま、前のめりに倒れた。

と同時に、闇が消えた。


廊下に、昼間が戻った。

「…」

振り返ることなく、廊下を歩き続ける女子生徒。

しばらくすると、女子生徒の腕の中で、里奈が目覚めた。

「うう…」

呻きながら、最初に目に飛び込んで来た女子生徒の顔を見た瞬間、里奈は微笑んだ。

「真弓…。お帰りなさい」

「ただいま」

女子生徒は、微笑んだ。

「うん」

里奈は安堵からか…再び気を失った。

「なんだ!」

その時、階段の上からサーシャが飛び降りて来た。

「この感覚は、やつらが!」

着地と同時に構えたサーシャと、里奈を抱える女子生徒の目があった。

「!」
「!」

互いを見て、相手のレベルを察知して、2人の間に緊張が走る。

しかし、女子生徒はすぐに緊張を解くと、サーシャに頭を下げて、そのそばを通り過ぎた。

(この生徒は!?)

サーシャは振り返り、遠ざかっていく女子生徒の背中をしばし見送った。

その女子生徒の名は、九鬼真弓。


「生徒会長!」

西館の廊下に偶々足を踏み入れた…香坂姫百合は、九鬼の顔を見て、涙を浮かべながら叫んだ。

「ご機嫌よう。姫百合さん」

九鬼は、姫百合に微笑んだ。

九鬼真弓。

生徒会長の帰還だった。