「人の欲望…か」

大月学園の西館屋上で佇みながら、サーシャは呟いた。

ブルーワールドではあり得ない…どこまでも、果てしない人工物。各々に無造作な姿は、各々の人間の欲望を示しているように思えた。

半月ソルジャーによる騒ぎから、数日。

学園は、平穏を取り戻したかのように見えた。

しかし、この星のどこかで、空間が破壊されているはずだった。

(神レベルでないとおいそれとは、異なる世界の壁を壊すことはできない。だからこそ…)

サーシャは、足下を見た。

(この学園から、攻めると思っていたが…)

大月学園は、この世界でもっともブルーワールドと繋がっている場所であった。

(ここは、あいつに任せて…他を当たるか?)

サーシャが考え悩んでいると、後ろに誰かが立っていた。

(!)

一瞬、気配を感じることができなかったサーシャは、振り返り様に床を蹴り、手刀を繰り出した。

その攻撃を片手で、軽く流したのは、理香子だった。

「月の女神!?」

目を開いたサーシャはすぐに、後ろに飛ぶと、構えを解いた。

「その体…。人の肉体ではないわね。だけど、物凄い魔力を感じるわ。あたしよりも、遥かに高い」

理香子は目を細め、

「天空の女神?いえ…彼女の魔力とも違う」

サーシャの体を凝視した。

「月の女神」

サーシャは話題を変える為か…一歩前に出て、理香子の目を見据え、

「この前、あなたの前に現れた男のことを知りたい。教えてくれないか?やつらの正体を」

「知らないわ」

しかし、理香子は即答した。

「!?」

驚くサーシャの表情に、理香子は悲しげに笑うと、視線を外の景色に移し、話し出した。

「あなたが思う程…あたしには力がないの。この世界を創る時に、ほとんどの力を失い…転生を繰り返す内に、女神と呼べる程の力を失った。でも」

理香子は微笑み、

「それは、あたしが望んだこと。あの人と同じ…人間になりたかったから」

懐かしそうに町並みを見つめた。