「だってじゃねぇよ…」

彼は静かに言葉を紡ぎながら、ゆっくりと私との距離を縮める。

私は蜘蛛の巣に捕まった虫のように、固まったまま動けなくて。

鋭い視線から目が離せなかった。

全身の血液が逆流しているかのように、ぞわぞわとした緊張。

「たった二文字だろ」


「そっそそそそういう問題じゃ…」

ないんだってば!なんて、呂律がうまく回らない私に言えるはずもなく。

心の中でその名を呼ぶことさえ、恥ずかしいというのに。

「ふっ、鼻…」

「え?」

こっちは極限の緊張を味わっているのに、彼は再び吹き出して笑った。

「詰めたまんまだったな」

「はっ」

すっかり忘れていた。たった数分前の事なのに。私ってば、めちゃくちゃカッコ悪い。
カッコ悪いどころか、可愛くも何ともない。


ただのアホ面だ…。



.