「濂?どうした?変な顔して。あ、俺、いつものコンビニで降ろして下さい。」

移動車の中。

一番後ろに座る俺をみながら、俺の前に座った凛。


「まだ愛ちゃん具合悪いんだ?」


「いや、明日から学校行くって。」


「良かったじゃん。で、その変顔はなにゆえ?」


「桃だよ。」


「は?」


「分かんねぇんだよ。何で今更桃なわけ?」


「桃?」


「桃ってあの桃だよな?」


「桃太郎の桃なんじゃねぇの?」


「だよな。」


「桃、好きなんだ?」


「でぇっきらい。」


「お前じゃなくて、愛ちゃん。」


「あぁ、そっち?いや、嫌いだと思ってたんだけど………好きらしいよ。全然知らなかった。」


「全然?」


「全然。」


「ふぅん。」


凛が意味ありげに笑って前を向いた。











桃が好き?












俺と同じで桃は嫌い。











だと思っていた。











なんだ?意味が分かんねぇ。

熱でおかしくなったか?











この時、いつものように



「桃なんか食えるか!ば〜か!」



ってあいつの頭を小突いで笑ってれば良かったのかもしれない。



「ずっと熱だしてろ。」



そう言って、おでこに氷をのせてふざければ良かった。










それをしなかったから……










俺は、『桃』を忘れた。