目が覚めたきっかけが何だったのか今では分らない。
きっとシオンに初めて会ったときからあたしは猜疑心と隣合わせでいたのだろう。

見て見ぬふりをしていただけ。
本当は騙されていると分っていたのに、自分だけ信じたくなかっただけ。
信じたら全てが甘い泡沫の幻となってしまうから。

紀がつけば早いもので秋も過ぎまた冬がやってきた。
毎年繰り返しているのに、何時も切なく記憶の底にある名も分らぬ相手を思いだす冬。

20歳のクリスマス。
客が来ないという大義名分を振りかざし、店は休みだった。
ルミナリエにお客さんとイルミネーションを観に行ってディナーを食べ暗い部屋に帰ってきて何故か涙が止まらなかった。

クリスマスにお客さんと過ごす自分が哀れとかホスト紛いに騙される自分が不甲斐ないとかそんなんじゃない。

自ら進んで解り切った茨の道へと進む自分がバカらしくて仕方なかった。
結局自分は、目に見える男や地位や金、自己顕示欲など副産物が
ないと前へ進めないだ。

それがわかっていて選ぶ選択肢を変えられないなんて自虐行為以外の何物でもない。

そんな人生に、唯一灯りを灯してくれる人。
それは一人しかいなかった。