大体、バ-って色かけって水商売用語を使うなんてホストか?と思ったけどまだシオンの働いてる店には行ってないし何も言わなかった。

「まじ鬱陶しいねんあいつ。ストーカー並みやわ」

その言葉を言い終えるか否か、シオンの携帯が鳴った。
液晶を見つめる彼がしかめ面になってるのを見て、さっきの女だと悟る。

「ったくなんやんねんほんま!」

そうぼやきながら話し始め、ベッドに移動する彼を一瞥して仕方なくバッグから文庫本を取り出し読み出した。

「自分酔ってるんか?昨日やって店来たやろ。俺は今日友達が東京から来てるから出勤せぇへんねん!」

タチの悪いDQNな女なのかな。大好きな金原ひとみ先生の文章も頭に入って来ない。まぁこの本は暗唱できるくらい読んだのだけれど。

それから小一時間くらい、バカ女とシオンの罵詈雑言をBGMに目と指だけを動かし活字を追った。

「じゃあな。また落ち着いたらメール送るからな。」

やっと終わったか。来て早々随分酷い扱いを受けたし、起きたら携帯は二つになってお亡くなりになっているし一体大阪に来てからどうなっているんだ。

「ごめんなーレイちぇる。聞き分けがないアホっつーかなぁ」

『何?シオンはホストなの?客と連絡取らなくちゃいけないバーテンダーなんて聞いたことないんだけど』

少しの苛立ちと嫉妬を含めて言うと、驚いたように一瞬目を見開いた。

「そんな訳ないやろー。健全にバーテンやで?でもあれや、バンドマンとか元モデルとかが従業員に多いから、それ目当ての客が多いねん」

世間一般の女性というのは、そういう肩書に弱いのだろうか。バンドマンだろうがモデルだろうがサラリーマンだろうが腐ってるやつは職種に関係なく腐っているし、紳士なやつは紳士だ。

『ふーん。ってか何であたしの携帯壊れてるわけ?シオン壊したでしょ』

「だってレイちぇるの携帯、男の名前がいっぱいだったんだもん。むかついたから折ってやったんやんか。大体レイちぇるだって壊してもいいんじゃなーい?っていってたで」

壊していいと言った記憶はないが、現に無残に転がっているんだから仕方がない。

「ま、後で新しく買いに行けばいいやん!そんでもってレイちぇるはもう東京には帰さへんで」

『は?どういうこと?』

「俺の彼女になったからには近くにおらな。な?」

どんな思考回路をしているとそういう結論に至るんだろう。
非常に理解しがたい。