「上に上がるのも久しぶりだから、ちょっとここを整理してから降りる。」
 上からそう声を掛けられたので私は解ったと勇に返事をした。
「見ててもいい?」
 そう階段の下から今度は私が声を掛けると、いいよと、返事が帰った来た。
 私は椅子を引き、いつもの席に腰を下した。
 アルバムは全部で4冊あった。表紙にそれぞれの国の名前が書いてあるようだった。その筆記体で書かれた文字を私はすんなりと読むことは出来なかった。
「チェコ、プラハ、、、。」
 私は何とか表紙の文字を読んだ。そして一番上の一冊を開いた。
一瞬でその土地の空気が伝わってくるようだった。日本とは全く別の空気が、、。
白い壁に赤い屋根の並ぶ町並み、レンガ作りの家や歴史を感じさせる建造物、芸術的で美しい時計台その全てに魅了された。もしもこんな所に、、私も行けたのなら、、。
またあの時感じたのと同じ、あの感情が蘇った。期待で膨らむ〝もしも〟の感情が、、。
心から絡まった糸が解き放たれるように、何かの束縛からとかれ、自由へと導かれるような気持ちになった。レンガの町を走る馬車、食べたことの無い料理、ガラス張りのショーウインドウ、町を抜ける路面電車、現地の人々の表情も皆生き生きとしていた。私は夢中になってフォトアルバムのページをめくった。
一冊目も二冊目も始めて見る風景と風土に感動した。そのハガキぼどしかない二次元の世界は私の想像を無限に膨らまさせた。いつの間にか私は三冊目のアルバムをめくりだしていた。その三枚目のアルバムには以前勇の話に出てきた駅のステンドグラスのコンコースや、急なにわか雨で立ち寄ったというレストランであろう写真と、そこで出会った日本人と思われる写真もあった。
その時だった、私の呼吸が止まったのは、、。
涙が溢れそうになった。