私は言葉に詰まってしまった。だって私と勇はたった30分の会話を二回しただけの仲でしかないのだから。
 突然不安の波が押し寄せてきた。
 確かな物は彼の名前だけ。
 それ以外のことは何一つ存在していなかった。
「もう一回いろんなことについて話してみる。」
「そのほうがいいよ、美鈴病んじゃってるもん。」
悲しくはない言い方だったけど、私にとってはとても悲しい言葉だった。それから数 
分私と香織は会話を交わし、また近いうち会おうと約束をして電話を切った。電話を切っ
た後、物音一つしない部屋で私は物思いに耽った。もちろんその空間に存在したのは勇へ
の思いだけだった。私は彼を何も知らない。〝かっこ悪いやつだったらどうするの?〟
 香織の言った言葉が私の頭の中を反芻していた。だから、何だって言うの。
 独りがとても寂しい。私は思い立ってパソコンの電源を入れた。ログインするサイトはもう決まっている。誰かと繋がりたい気分だった。だけど誰でもいいわけではない、私が繋がりたかったのは、たった一人の人でしかなかった。誰かがログインしてくる度に私はすぐにハンドルネームを確かめた、私が聞きたいのは彼の声、勇の声だけだった。
 私たちの関係は一方通行だった。彼のログインを私が待つ。もしももう彼がログインをしてくれなかったら?その可能性は低くは無い。目印が無ければ目的地に辿り着けないのと一緒で、私は目標を失った一羽の渡り鳥のようなものだった。空から落ちる雨粒だった、川を流れる水だった。風に流される雲だった。私の思いや希望が叶うことはない。この気持ちを何処へ向けたらいいのだろう。
 だから私は思い立った。決心をした。勇に会いに行こうと。