あなたは人を好きになるときに、まずどこから好きになる?
 その瞳を見た瞬間?その声を聞いたとき?それとも何か特別な物を感じたら?
あの時の私は本当に人を好きになったことがなかったんだと思う。そうじゃなければ、今まで私が出会った人の中に、私の心に強く何かを感じさせてくれる人や、私の精神に何かを与えてくれた人がいなかっただけ。
心って何なんだろうって考えた時、私は思った。
形のないもの、そんなものに真実は存在しないって。もし真実があるのだとしたら、それは今自分が見ている物、この目で見える物だけだって。形のないものに真実を見出すなんて、そんなの馬鹿げた話にきまってる。傷つくことが怖いのだったら心なんかに惑わされないこと。
何が真実かなんてことさえわからないくせに・・・。
私はもう恋なんて出来ないって思ってた。少なくても、あの人に出会うまでは。
傷つけられたとか、傷ついてるとか、そんなふうに思いたくなかった。そしたら何かに負ける気がして、もう立ち直れないような気さえして。
自分の過去を知られるのが怖いとか、知られたくないとか、何もかもなかったことになればいいのにとか、こんなに強い情念に縛られた人間は、きっとこの世界に私一人しかいないって思ってた。
そんな被害感は情何の役にも立たない。ただのお荷物にしかならないって、自分が一番良く知ってるはずなのに。
 この数年間私はずっと一人だった。すくなくとも精神的には・・・。
雨宿りをする時も、ただ空を見上げる時も、買い物をしている時も、好きな曲を聴くときも、映画を見る時だって。私は誰かを思うことも無く、誰かに思われることも無かった。自分だけの止まった時間に身を委ね、ただ生きているだけだった。誰かに信じて欲しいとも思わなかった。誰かにわかってほしいとも、本当の真実を知ってほしいとも思わなかった。そしてもう誰も、好きになんてなりたくなかった。