家に帰ると弟の優雅の靴があった。もう帰ってきてたんだ、と呟くとあたしは優雅にばれないように顔をしっかり拭いて中へ入った。
「ただいまぁ。」
「あっ、姉ちゃん。おかえり~。」
いつもの愛しい声が聞こえる。本人にはいつも特別優しかったりすることはないけれど、母が亡くなってから優雅が癒しの元となっていた。
「姉ちゃん、新しい学校どぉだった?」
優雅はゲームをしていたらしく、向こうの部屋からはゲームの明るい音がする。
「ん~。後で言うね。あたし・・・疲れちゃって・・・。」
「そうなんだ。お疲れ様。」
「ん。それより、ゲーム何してたの?」
「健斗兄ちゃんが家から持ってきたゲームを一緒にやってたんだぁ。」
健斗・・・。聞き覚えがある名前・・・。
「まさか・・・。あの、柴咲健斗(しばさきけんと)!?」
「そーだよ。あれ・・・?姉ちゃんに言ってなかったっけ?」

健斗とはあたしの小さい頃・・・詳しく言えば、3歳ごろからの幼なじみ。昔っから毎日のように遊んでいた仲だったが、アメリカに留学すると言ったっきり姿を消してしまっていたのだ。それはちょうどあたしと健斗が中学1年の頃で、健斗は父親が事故で亡くなり母親と二人っきりでアメリカへ行ったのだった。兄弟の唯一の兄も父親と一緒に事故で亡くなったらしい。

「よぅ!百季、元気にしてたか?」
あたしはいきなり声をかけられたので少し驚いた。そして目の前には・・・健斗がいた。
軽く茶色が混じった黒髪。笑うと一緒にできるえくぼ。ニカッと見える歯。どれも健斗だ。
「百季?どうかした?」
声を掛けられてあたしは我に戻る。
「け・・・けけ・・・健斗・・・。留学してたんじゃ・・・?」
「いや。してたけど・・・なんで?」
「姉ちゃん、聞いてなかったらしくて。」
「どういう事!?」
「健斗兄ちゃん、中学の留学終わったから父ちゃんが出張でいない間、保護者の代わりで来てくれるんだよ。」
優雅は自慢するかのように言った。
「お父さん・・・出張するの!?」

それも聞いてなかった・・・。都合が良すぎる。あたしが学校行く日に限って・・・。しかも、あたしに言わないなんて・・・。最悪だ・・・。これからどうしたらいいの?優雅達はこの事知らないし・・・、相談できないよ・・・。