片翼の天使

「落ち着いた?」

「ん。ごめんね?」



屋上の赤いベンチに座りながら、涙がようやく収まった目元をこすり、呼吸を整えていく。



「タオル‥洗って返すから」

「ふふ。ありがとっ」



舞い上がったピンクがひらひらと落ちて、まるで春の雪みたいに流れる。



「綺麗だねぇ」



ふわふわとしたその真っ黒な髪の毛が、ピンクを背景になびいていて、私はそっちにほぅ‥となった。



「ねぇ、」



声をかけてみたものの、何て呼べば良いのか分からなくって。

だって、もし私と同じように名前が嫌いだったとしたら、迂闊に呼んではこの子を傷つけてしまう。‥でしょう?



「どうしたの?」



真っ直ぐに私を見る瞳は真っ黒で。吸い込まれてしまいそうだった。



キーンコーンカーンコーン‥



「「あ‥」」

「終わっちゃったね」

「終わっちゃったねぇ」



ふふふっと2人で笑いながら、チャイムが鳴り終わるのを聞いていた。



「あのね? もしかして‥自分の名前、嫌い?」



私は、意を決して聞いてみた。

すると彼女は、その美しい顔を下に向けて頷いた。



「嫌いだよ。だって、綺麗すぎるでしょ?」



美しい彼女には、なんて似合う名前なんだろうと思ったけど。

でも、悩みの価値観なんて人それぞれなんだなぁ‥



「あ、そうだ。柚子って呼んでも良い? さっきから勝手に呼んじゃってるんだけど」

「あ、うん。むしろその方が嬉しいし」

「じゃ、よろしくねっ柚子」



初めて家の者以外に呼ばれたその名前は、何故だかとても、私のココロを締め付けた。

また、泣き出してしまいそうだ。



「えっと、じゃあ私は……」



この子の事を何て呼ぼうか考え始めた時だった。



「やっぱり高い所に居たか」



黄色い扉を開けて入ってきたのは、あの髪の長い綺麗な子。



「優花だ。こんな所で何してるの?」

「はぁー。そりゃこっちのセリフだ。あんた達を探しに来たんだよ」



壁にもたれながら片手で頭を抱えた彼女。



「とりあえず、お前ら2人は今日、掃除当番だから」


「「え゛」」

「文句言わない! ほら行くよっ、みぃ、柚子っ」



あ‥私の、名前……

とても、とてもくすぐったくって。



「行こっみぃちゃん、ゆーちゃんっ」



笑顔になる。