片翼の天使

階段を駆け上がって、黄色いドアを勢いよく開ける。

暖かな春の風に舞うピンクが、こんなところまで届いていた。



「ハァ、ハァ‥っう‥うぅ--‥」



頬を伝うそれはとめどなく溢れて、息のコントロールがきかない。



「なん‥で。なにあの子」



真っ直ぐな瞳だった。

真っ直ぐで、真っ直ぐすぎて、全てを見透かされてるみたいだった。


あの子の前では、“五月女”を演じきれない。


思っちゃいけない。
思っちゃイケナイ。

解って欲しいなんて
友達が欲しいなんて



「思っちゃいけないのに‥--‥っ」



緑色のフェンスにカシャンと額をつけて、誰もいないこの屋上なのに、漏れる嗚咽を殺して零した。

その雫が、灰色のコンクリートを色濃くして、舞い落ちてきたピンクがとまる。


痛かった。
苦しかった。

でも、それを悟られてはいけない。

私は、“五月女”なんだから。



ひし形のフェンスをぎゅっと強く握った、その時だった。





「ユズ‥ちゃん?」



美しい音を鳴らしながら、私を“名前”で呼ぶその声は……あの子。