片翼の天使

くるくるした緑光りするくらいの真っ黒な髪。

顔から溢れてしまいそうな大きな黒い瞳。

美しい声。


--時間が、止まってしまったみたいだった。


誰もが目を奪われ、その声に震え、息をすることすら忘れているようだった。



「おーぃ、みーぃ」

「あーっ」



後ろの方でゆるーく声をかけたのは、入学式で見た長い髪の綺麗な子。



「遅かったね?」

「うーん‥迷ったんだよ。やっぱり、迎えにきてもらえば良かったな」



しゅん‥ってなってる姿すら可愛くて、私の中のイメージは“変な子”と“可愛い子”っていう、相反する2つになった。



「おい黒姫よ。俺になんか言うことはねえか?」

「ほぇ?」

「あ、俺は担任の紫藤だ。よろしくな」

「あ、私は黒姫魅です。よろしくお願いします」



黒板の前で挨拶しあっていた2人の瞳は、何故かイキナリ、座るタイミングを逃していた私を見た。


真っ黒な大きい瞳でじぃーっと凝視されて、少し緊張した私。すると、



「五月女。こいつにもう1回自己紹介してやれ」



名前‥嫌いだけど、この子には、なんか素直に言えたんだ。



「‥五月女柚子です。よろしく‥」



そう言うと、彼女の空気が一瞬止まり、大きな瞳は更に大きくなった。


あぁ‥この子もダメか。

いつにないほど胸がキュッとキツくしまって、そのまま涙が出そうになった。


友達が欲しかったわけじゃない。

この子なら‥なんて思ってない。


歪み始めた顔を隠すように、私は下を向いた。



そんなの、わかってたコトじゃないか。

私が“五月女”でいる限り、対等に笑顔で話してくれる子なんて居やしない。

居やしないんだ‥。





「ユズちゃん?」





--‥え?





「ユズちゃんって呼んでも良いかな? よろしくねっ」



その言葉にバッと顔を上げると、彼女は美しい微笑みを浮かべていた。

それはまるで、天使みたいだった。


私は、溢れるそれを堪える事が出来なくなって、漏れそうになる嗚咽を手のひらで抑えながら、教室を走って飛び出した。



「おぃっ五月女!! ……何なんだよこのクラスは‥」



そんな担任の声も、ザワザワザワザワとどよめくクラスメイトの声も、

クスクスと笑ってる1つだけの声も--‥



何も聞こえない所まで……走った。