静まったこの和室に響くのは、すすり泣く音。


体中の水分を全て出し切るんじゃないかってくらいに泣いている奥さんを、

強く強く強く抱きしめる。



間に合わなかったんだ、俺たち。

--‥遅かった。



ふと、写真を見上げる蒼が目に入った。

あいつ、穏やかに笑ってやがった。娘と一緒にさ。


泣くのは周りばかり。


魅と関わった人はそう多くない。

でも、関わった人は全員なにかしらの影響を受けている。それだけ、あいつの魅力はでかかった。



蒼と娘が唄う。

あの歌を。天使の歌を。



本物の天使になったあいつは、今どんな顔でこいつら2人を見てるのかなぁ?


離れてしまって寂しい?

それとも、その綺麗な顔で笑ってる?



もう、その笑顔を見ることはできない。

もう、その美しい声を聞くことはできない。


でも、ずっと‥ずっと、残ってるよ。



雲のようにふわふわと
猫のように気まぐれに


また、みんなを見ていてよ。

笑いながら、さ。



あいつ、ケーキ好きだったからな。

奥さんとの力作を、また届けに来るよ。

新作も。


賞をとったら、必ず報告しに来る。約束だ。





俺の兄ちゃんが、生涯をかけて愛し抜いた人。



出逢ったあの日から、
今日まで、ずっとずっと見てきた。



兄ちゃん、これで幸せか?

その微笑みは、幸せだったと思って良いんだよな?



俺、俺‥涙が止まんねぇよ。






「恍一朗‥」



蒼が、いつの間にか泣きじゃくる俺の前に座ってた。



「俺、幸せだったよ。いや、これからもだ」



そう言った蒼は、後ろを振り返った。

そこには、魅が残した宝物。



「あぁ、あぁ‥っ、お前は幸せモンだっ」



そうしてまた泣き始める俺の頭を、蒼はくしゃくしゃとぐしゃぐしゃに撫で回す。



「泣けっコウ‥」






これが、俺と兄ちゃんの軌跡。

でも、これで終わりじゃない。

これからも続いて行くんだ。俺たちは。




あの人が、気まぐれに空からふわふわと覗いている限り。

俺たちは、幸せだろう。

俺たちは、笑顔でいられるだろう。



生きて歩いてく。

軌跡を作ってく。


まだまだ続くんだ。

俺たちは。




な、兄ちゃんっ♪







【蒼銀の狼と金の犬】

おわり。