片翼の天使

時は、風が初夏の香りを運び始めた頃。

みぃの大好きな向日葵が顔を出してきた。


ピーンポーン‥

ピーンポーン‥

ピーンポーン‥



ある晴れた土曜日。

定期試験の勉強をする為にみぃの家まで来たけど、いくらチャイムを鳴らしても反応なし。


嫌がらせかっていうくらい鳴らしてもダメ。



出かけちゃったのかなぁ‥?



諦めて帰ろうとしたその時--‥






バッターンッッ!!






家の中で、何かがもの凄い勢いで倒れる音がした。

と同時に聞こえてきた、ヒステリックな女の人の声。



ーー何‥?



ビクビクとしながらも、ドアノブに手をかける。



鍵‥開いてる‥



そっとお邪魔すると、耳障りで甲高い声が部屋中に響いて気持ちが悪い。



「--ってんでしょうねっ!? 援助は中学まで。あとは自分で考えなさい!!

働くなり逃げるなり逝くなり好きにしてっ!! ただし、一切こっちには関わらないで頂戴っ!!」

「……はい」



バッシーンッッ!


「--っ!! 私の前で声を出すなってあれほど言ったでしょうっ!!」



罵声を浴びせられながら、更に殴られているみぃを、もう見ていられなかった。



「やめてくださいっ!! 殴るのは良くないと思いますっ」



勢いで飛び出してしまった私。

家庭の事情はひとそれぞれ。他人が口出しするなんて、あまり良いことではない。

ないんだけど‥。



「あんた誰」

「私は、魅の友達です」



よく見れば、お世辞でも綺麗とは言えないような、中年のおばさん。

真っ赤な口紅がキモチワルイ。



「ふーん‥あんたも男にだらしなさそうな顔してるわね。お前には似合いの“友達”だわ」



蔑むような眼差し。それに加え、鼻を鳴らしながら笑って言い放ったこの言葉は、私を通り越してみぃへの侮辱。

なのに。



「……優花への侮辱は許さない」



恐ろしく美しく、
恐ろしく冷たい声。


私の背筋は、一瞬にして凍った。



その上、恐ろしい程に真っ黒で真っ暗な瞳で射抜かれたそのおばさんは、端から見てもハッキリと分かるくらいに震え始めていた。



「こ、今回はこれで帰るわ。覚えておきなさいよっ! 援助は中学で終わりっ!!

お前なんか、あのろくでもない両親の元へ早く逝ってしまえっ!!!」