片翼の天使

てくてくと歩いている間に、少しだけ話をした。

っていっても、徒歩何分だとか、滑りそうだとか、雪が強くなってきたねとか。

そんな、取り留めもない会話。


もう少し歩くと、

薄いピンクの外壁に紺の屋根、2階建ての小さめのアパートへと案内された。


「お邪魔しまーす」


し‥んとした室内。
靴は、今脱いだローファーともう一足だけ。


「ねぇ、黒姫さん」

「それで呼ばないで」


冷たく返ってきた言葉。


「あ、ごめん。じゃあ‥魅?」

「名前はもっと嫌い」


えー‥、んー?


「じゃ、みぃ!」

「は?」

「みぃって呼ぶわ」


そう言うと、背を向けてとことこ奥へと入って行った彼女。

これは、肯定‥ってことだよね?


「ねぇ、みぃ? ご両親は?」

「いない」


マフラーやコートを脱ぐと、みぃが手を差し出した。


「あ、ありがと」

「シャワー、入れば? 風邪ひくよ?」


私はお言葉に甘えて、シャワーを借りた。

綺麗に掃除された浴室、整頓されたシャンプーたち。


綺麗好きなんだ‥。


浴室を出ると、みぃの‥だよね?

猫の絵のパジャマと、新しい下着が置いてあった。



用意してくれた、もふもふしてるスリッパを履いて、人の気配がする方の部屋へと向かう。


ほとんど何もない家。本当に独りなんだ‥と、なぜだか私が寂しくなった。


「お風呂ありがと」


暖かい部屋。

ストーブの前にかかってる私のコートやマフラーに、ドライヤーを当ててる彼女が居た。


「あ、もう少しで乾きそうだから。座ってて」


そこにあったベッドの脇にペタリと座ると、


「それ、飲んで」


と、指を差したみぃ。

小さなテーブルに置かれていたのは、あったかい牛乳だった。


「ありがと」


ズズっとそれをすする。あったかい‥。


「乾いたよ」


綺麗にたたんで渡してくれたコートたち。

ほんっと几帳面なんだなぁ‥。

そんなことを思ってた。


すると、同じくあったかい牛乳をすすりながら、私をじっ‥っと見てる黒くて大きな瞳。


「何?」

「名前‥」

「え?」

「あなたの‥名前は?」


あ‥自己紹介してなかったわ。


でも、私のことを少しでも気にしてくれたのかなぁ‥なんて。

少し嬉しかったりする。