片翼の天使

くるりと背を向けて去っていく女の子。

その後ろ姿さえ、美しいと、そう思った。



あの子‥1年生だ。私と同じ、赤いネクタイしてた。






季節は廻って、秋ももう、終わる頃。

ブレザーだけじゃ寒くって、コートやマフラーをしてる子もいる。



あれから何日も何ヶ月も、あの子に逢うことはなかった。


でも、まるであの容姿と声に魅入られて、捕らわれたように

私のココロに残り続ける。



「優花?」

「へ? あ、何?」

「なんか、上の空って感じ」

「そーよねぇ。あっ! もしかしてぇ」

「恋しちゃったぁ~?」



はぁ。
このお年頃たちは、ちょっとため息をつくだけで恋バナへと持っていける。

ある意味、特技だね。



「あのさ、このクラスに優花って子いる?」



はぁ‥。
聞こえてんだけど。



「また優花ご指名じゃない?」

「はいはい」

「いーなぁ優花ばっかりぃ」



良し悪しで言ったら、私にとってこの状態は後者なんだけど。



「優花ぁー指名ー」



毎度 馴れ馴れしく呼ぶジャガイモ。

もう慣れたわ。



「なんですか?」



ネクタイは青。
ってことは3年生。



「俺と付き合って」

「嫌」



毎度のこと。
それをみんな知ってるから、おーだのきゃーだの声が飛び交う。



「俺、優花ちゃんのこともっと好きになりそ♪」

「私はなりませんから。どうぞお引き取りくださいませ」



完璧にお断りしたはずのこの人。

結構しつこかったりする。



「ねぇ優花ちゃん。一緒にご飯たべよ」

「優花ちゃん、ここ教えて~」

「優花ちゃんは何が好き?」


優花ちゃん優花ちゃん優花ちゃん優花ちゃん優花ちゃん優花ちゃん‥






ぷつ‥






「うるさぁぁぁーーーーーいっっ!!」




『おぉーー!!!』

「あの鉄の優花を怒らせたぞ」

「すげぇやつだ」

「優花ってデカい声だせるんだ」



はぁ。
そんなギャラリーの感嘆の声なんかどうでも良い。



「しつこい! うざい! めんどくさいっ! 私に構うなっ!!」

「え? そりゃ無理」



私の人生初とも言える怒鳴りを、いとも簡単にあっさりと返すコイツ。


意外と強者だーー‥



「あ‥」



目の前には、廊下をスタスタと歩くあの子の姿。