大好きなこの香り。

大好きなこの体温。



ドクンドクンドクン


耳元にある蒼の心臓は、少し早くって、私と同じ速度。


ゆらゆらゆらゆらと揺れて気持ち良い‥



ハズーー‥



「ゔぅ~‥気持ち悪い~」

「え"」



ーー‥酔った。



バタンと開けたのは黄色い扉。

座らせてくれたのは赤いベンチ。



「大丈夫か?」



蒼の低い声が、心配そうに響く。



「うん。なんとか」



下を向いてた顔を、ふっと上げると‥



近いっ!!!



一気に顔が赤くなるのがわかった。


え‥と、どうしよう。何から話そう‥。


心臓ばっかりうるさくて、言葉が声になって出てこない。



至近距離でお互いの瞳を見つめながら、

長い長い沈黙。


でも、その沈黙はだんだんと私を落ちつかせてゆく。



蒼かった空は、もう茜色へと姿を変えて秋の紅葉に溶けてゆく。

夜になるまで待てなかった、蒼銀の三日月は猫の爪みたい。


冷たくなり始めた秋の風。蒼が近くにいるから寒くない。



「魅」



先に沈黙を破ったのは、蒼だった。



「ん?」

「好きだ」



短いけれど、確かな言葉。



「私も、蒼が好き」



やっと‥やっと‥



「なんで泣いてんだ?」

「嬉しい‥」

「そっか」



そう言う蒼の瞳も、ゆらゆら揺れてるのがわかる。


私は、蒼をぎゅっと抱きしめた。

蒼も、私の背中に腕をまわして抱きしめ返す。



「俺、弱かった。逃げるしかなくて‥っ、お前を傷つけるのが恐くて‥」



おんなじだーー‥



「護れなくてごめん」



蒼の腕がぎゅっと強くなる。

ーー‥泣いてるの?



「ごめんなさい。
私が弱かったから‥あの時、蒼を信じることができなかったからーー‥」

「俺、覚悟を決めた」

「私も、覚悟を決めたよ」



蒼が、そっと私の頬に触れる。



「愛してる、魅」

「愛してる、蒼」





ーーーーーー‥





星が瞬き始める。

蒼銀に光る下弦の月が笑ってる。



この

2人の長い長い
再出発のキスを

まるで祝福するようにーー‥



「んーんーー‥っ」