あの別れから、もう1ヶ月弱が経つ。
俺は‥何をして良いのかわかんなくなっちまったんだ。
この10年、
ずっとずっと探して
やっと見つけて
ついに愛してくれて
そして‥手放した。
お前の声も笑顔も、全部まだ‥俺の目の前にある。
この家には、お前の記憶が多すぎんだよーー‥
この俺の部屋も
ダイニングも
リビングも
風呂やトイレまで‥
お前の記憶が多すぎんだーー‥
コンコン
「蒼?入るよ?」
返事をするのが面倒くさい。
しばらく何も言わずにいると、ガチャとドアが開いた。
「いつまで引きこもってんの?」
「ーー‥颯斗か」
「あったり♪間違えなくなったね?」
颯斗は白いソファに腰を下ろし、ベッドに座っている俺と向き合った。
「まだ、会えない?」
そう聞いて来る颯斗に対して、俺は何も言わなかった。
いや、“言えなかった”んだ。
「そっか。10年‥だもんなぁ」
「ーーー‥あぁ」
「まだ、好きなんだ?」
ーーーーー‥好き。
‥それを口にしてしまえば、もう一生 忘れることなんか無理だと思った。
「魅はね、」
その名前を聞くだけで、心臓が飛び出しちまうんじゃないかってくらいドクンと鳴る。
「今ウィーンに行ってるんだ」
音楽の都へ‥?
っつか!!
「連絡とってんのか!?」
「ん?あぁ。正確には、俺は優花ちゃんと。みんなもとってるよ?」
ーーーーあ‥そ‥。
「気になる?」
「いや、別に」
「ふーん‥」
微笑を浮かべる颯斗の瞳は、なんか嬉しそうだ。
「忘れようとしてるってよりは、更に気になりますって感じだなっ」
高く上がった太陽の光が窓を差し、颯斗のオレンジっぽい髪をキラキラさせている。
「別に‥」
俺は、それしか言葉が出てこなかった。
気にならないっつったら嘘。
ただ‥気になる自分を認めて、またアイツを求めたらーー‥
また傷つけてしまいそうなんだ‥。
「まだ逃げんだね」
颯斗の瞳は真っ直ぐに俺を見てる。
「魅は‥覚悟を決めたってよ」
「は?」
「お前に向かって歩く“覚悟”決めたってさ」