片翼の天使

「みいるさんの周りには、笑顔がたくさんだ」

「え?」



しばらく猫を見ていた私。涙はもう、収まっていた。



「お友達やお仲間の方々を‥とても大切にしてらっしゃるのですね」



神父様は、とても優しい笑顔だった。



「お母様のことも」



あなたを笑顔にしてくれたのは誰ですか?

あなたに居場所を与えてくれたのは誰ですか?

あなたを信じ、一生の友達となってくれたのは誰ですか?

あなたに歌を教えてくれたのは誰ですか?


神父様の言葉。

そのひとつひとつが私のココロの紐をといてゆく。



「でも、みいるにその瞳をさせた奴は今の話の中にいないよね?」



フォルテくんが、大人びた低い声を出す。

ふと神父様を見ると、あの優しい笑顔のまま‥。


「怖いの‥。

“あの人”の事を口にしてしまったら、フタがはずれて溢れてしまいそうなの」

「みいる‥」



フォルテくんは、私の髪を撫でながら、低い声のまま話しかける。



「逃げてちゃいけない時もある」



ーーえ‥?




『逃げるなっ!』



ゆう‥かーー‥



「逃げてちゃ、弱いまんまだよ?」



弱いまま‥



「ゆっくりで良いんです、みいるさん。

もしも、逃げてしまったことを悔やむなら、その道を振り返って考えるのです。

それが第1歩。

ねぇ、フォルテ?」



「ああ。向き合ってこそ、強くなれる事もあるんだ」



なんて強い眼差し。

なんて強い言葉。

なんて強い‥ココロ。


フォルテくんは、たった8歳のはずなのに。

私の半分しか生きていないはずのにーー‥

どうしてこんなに強いんだろう。



「フォルテも、最初はみいるさんみたいでした。

“両親に会いたい”

と口にしてしまえば、その想いが溢れてしまうと‥」



フォルテくんも‥?



「それは昔のハナシだっ」



そう言って顔を背けてしまったフォルテくん。

ふふ、耳が少し赤い気がした。



「みいるは泣いたり笑ったり、忙しいヤツだなっ」



少しだけ顔をこっちに向けたフォルテくんは、笑っていた。




ああ‥

なんか、わかったかも。