片翼の天使



「みいるさん?」



そう優しく穏やかに私の名前を呼ぶ神父様のその声に

涙はとどまることを知らなかった。



フォルテくんは、座り込んでしまった私の髪を撫でながら、


「つらいこと、吐き出して?」


と、その蒼い大きな瞳を心配そうに細めていた。



「‥‥っく、ひっくーー‥はい‥」



なんにも知らない、まだ出会ったばかりの2人に


“私”を打ち明けるのは少し‥申し訳ない気がしたけれど、




私は、1つ1つ順を追って話し始めた。








ーーーーーーーー‥









生い立ち

お母さんの思い出

お父さんの記憶

親戚との関係

1人暮らし‥






そして、中学時代から今に至るまで全部話した。




ただ1つ‥“あの人”のことを除いて。







ーーーーーーー‥





少しの沈黙。




この教会の窓はとても大きく、私の大好きな空がよく見える。



もうすでに橙色に姿を変えていたキラキラと光る太陽は、山へと消えゆく。


その代わりに


群青色の空側にはピカピカと光る、蒼銀の満月。




太陽と月が一緒に存在する、この不思議な空。


私のココロのフタは、確実に開きかけている。




すると


少し開いた扉から、ニャーと鳴きながら入ってきた黒い猫。



丸窓から差す

橙色と蒼銀が入り混じるその光の筋に、

まるで惹き寄せられるように進み、


コロンと転がった。





足の先、耳の先まで真っ黒なその猫は、

とてもとても幸せそうに笑っていた。




黒い猫も、

笑うんだねーー‥