片翼の天使


次の日も、空はとても高く澄んでいて、雲ひとつない。

まるで

あおいえのぐをひっくり返したように、どこまでも蒼く蒼く、綺麗だった。



「ーー‥でね、俺も日本語がペラペラなわけ。どっかおかしいとこあったら言ってな?」

「いや。もう完璧だよ!!完璧すぎて怖いよ」

「そーゆーみいるだって、ドイツ語完璧だぜ?こえーよ」

「Danke.」
“ありがとう”

「Gern geschehen.」“どういたしまして”



ぷっ‥あっはははははははははははは


楽しい。

お陽さまの光を浴びる度にキラキラ光る、この蒼銀の髪に時々ドキッとするけど。

この子は太陽みたいに屈託なく笑うんだ。


ーー‥私のココロを照らすように‥


ギィィーー‥


「いらっしゃい、みいるさん」

「あ、こんにちは神父様」



少しぽっちゃりしている神父様。

昨日は暗くてよく見えなかったけど、赤紫色の修道着を纏っている。


なんとなく‥厳かだ。



「みいるさん、歌はお好きですか?」



歌‥

あの日以来、コンテスト用の歌しか唄ってないな。



「みいる」

「ん?」

「唄おう」



ニコッと、綺麗な顔を崩しながら笑うフォルテくん。

すっと差し出された左手を捕まえると、祭壇の上へとエスコートされた。



ブォーー‥ン‥



パイプオルガン‥

聞き慣れたと思っていたけど、いつもと違う空間で鳴るこの音は、私のカラダの芯をふるわせる。


唄えないわけじゃ‥ない。

歌が嫌いなわけでもない。


ただ‥

唄ったら、フタが開いてしまいそうなだけ。



~~~~~~‥♪



少し高めで

力強く

透明な歌声。



リズムはワルツ

速さはアンダンテ


この歌はーー‥



~~~~~~~♪
‥‥~~~~~♪



いつの間にか、フォルテくんに合わせて唄い始めていた私。


ふっとこちらを向いたフォルテくん。

橙色に変わりかけている光を一筋浴びながら、楽しそうにキラキラしてる。



あぁ。この感じ、前にも‥


開けるまいと思っていたココロのフタ。

雫となって私の頬を零れ落ちていくんだーー‥