「海斗っ!うちの車 呼んであっから、先に帰れ!」

「わかった!タク達を頼んだぞ。颯斗」



俺は車に乗り込んで、蒼のもとへと向かう。


魅はきっと、全てを思い出したんだ。

だからあんな瞳をしてたんだ。



あの瞳を見るのは、これで2度目。




ーーーーーっ!




蒼!

お前が居なきゃダメなんだよ!


ちゃんとあいつに、真実を伝えてやってくれよっ!

愛してるって言ってやれよっ!



ーーーーー蒼っ‥






ーーーーーーーー‥





俺は、バンっ!とドアを開けて蒼の部屋に入った。


足元の間接照明しかついていない、薄暗いこの部屋。



「海斗か?」

「ああ」



こいつはいつしか、俺たちを見分けられるようになってた。


そう‥魅が来てから。



「魅が全てを思い出したぞ」



俺は、蒼がすぐにあいつのもとへ走ってくもんだと思ってた。


でも‥



「そっ‥か」



そのひと言。
そのひと言だけ呟いた。



窓から差し込む夜の光の所為で、

逆光になってる蒼はどんな顔をしてるのかわからない。


俺は無性に腹が立った。



「行けよっ!魅のとこへ!!お前の口から伝えろよ!

全部‥全部!!!」



胸ぐらを掴んで揺すった。


見えた蒼の瞳は



魅のそれと同じくらい真っ暗で、光なんか一筋も通さないような闇に‥
飲まれていた。





「なぁ海斗‥」

「あ"あ"?」

「俺、アイツが好きだ」

「知ってるよ」

「アイツをずっと探してたんだ」

「知ってるよっ」

「でも‥」




蒼は、その真っ暗な瞳を宙に浮かせたままーー‥




「傷つけたのは俺だ」




悲しみを含んだ低い声。


こいつは、涙を流すことなく泣いている。




俺は、何も言えなかった。

言う資格なんかーー‥

ないだろ?




「俺、アイツに会ってくる。ちゃんと、話すよ」




宙に浮かせたままの真っ暗な瞳。





車へと向かうその背中に


俺は、なぜか不安になった。





きっと、今日は満月なのに

雲が隠して顔が見えない。


嫌な予感が

俺の胸をざわざわと

揺らしていた。