「姉貴っ!」

「謡太~探してたんだよぉ?……あ」



黒髪サラサラの女の人は、私に気づいた。



「タイミングが悪ぃんだよ、姉貴はいつも」

「そーみたいだね」



女の人は私に向き直り、



「こんばんは。泥棒黒猫さん♪」



そう言った彼女の瞳は、黄嶋おじさんの それと同じーー‥



「姉貴っ!邪魔だ!どっか行ってろっ」



カタカタと震えだした私の身体。



「黙ってて謡太!言いたいことがあんのよ、この黒猫に」



ニヤリと口角を上げた彼女の言葉は、私の心を貫くに充分な鋭さだった。


「銀崎くんが探してたのが、あんただったなんてねぇ」



震えが大きくなる。



「あたしはあんたなんかの身代わりだったワケか」



黒髪がサラサラした綺麗な人。

アトラクションの光が変わり、逆光でその姿が黒く影になる。



「でも、銀崎くんは‘あたし’を選んだわ」



ズキンっズキンっ

アタマガイタイ‥



「あんたも覗き見してたわよねぇ?あの夏祭りの日の、

あたしと銀崎くんのキス」



抜け落ちた記憶のカケラがーー‥



「黒猫は所詮、いつまで経っても黒猫なのよ。
これ以上、あたし達を不幸にしないで」



集まってゆくーー‥



「みー‥」
「謡太!行くよっ」



ドクン、ドクン、




お手洗い


コンビニ


黒髪の綺麗なお姉さん


小さなみーちゃん


階段









ーーーー‥キス





蒼ーー‥




ド ク ン っ!!





蒼っ!



繋がった記憶のカケラ。



でも




涙は、止まることを知らなくって。




思い出さなければ良かった。

忘れたままでいれば良かった。



苦しくて苦しくて
胸が潰れてしまう。





『銀崎くんは‘あたし’を選んだわ』





蒼は、あのお姉さんを選んだ。



蒼が待っていたのは

“私”じゃなくて

“あの人”なんだ。




苦しくて 苦しくて


悲しくて 悲しくて





愛しくて。






声のない声で泣く。


声のない声で叫ぶ。




そして





声のない声で呼ぶ、

愛しい彼の名前。




うわぁぁっ!





私が壊れていく。