まっぷたつだった月は、光の量を増やし
確実に太ってく。
明日はもう、
ーー満月‥かな。
ーーーーーーーー‥
あれから、幾日かが経ったけれど‥
同じお家で生活しているはずの“あの人”には会わなかった。
でも、食器や洗濯物、置き忘れた楽譜などで“居る”ことが確認できる。
楽譜?
ダイニングテーブルに置いてあった楽譜を、バサッと手に取り眺めた時だった。
ーーーーー‥
『スコア』
『お前、顔に出るもん』
『三線と歌』
ーーえ?
『蒼って運動得意?』
『蒼って身長いくつ?』
『私、蒼のこともっと知りたいっ!』
わた‥し?
涙が‥溢れる。
こんなにこんなに
“好きだった”
見えた映像‥“あなた”は、本当はこんな風に笑うんだね。
この涙はなんだろう?
あなたを忘れてしまった事への罪悪感?
違う。
忘れてしまった想いが溢れてくんだ。
笑顔のあなたを思い出したから‥
この時ばかりは、声が出なくて良かったと思った。
私の泣き声は、夜に飲み込まれてしまうから。
でも
ガチャ‥
ダイニングのドアが開いた。
「魅ちゃん‥」
拓弥さんは、黙って私の顔をその胸に押し付けた。
そして、ずっと頭を撫でていた。
「魅ちゃん?あのね、」
拓弥さんの声は、とても落ち着いていてとても優しかった。
「もし‥その涙がアイツの為のものならば、アイツを信じてやって欲しい」
ーー‥?
「君をずっとずっと探し続けたアイツを。君をすごくすごく愛してるアイツを」
拓弥さんは、その腕を痛いくらいに強くして
「いつか、全てを思い出しても」
と、呟いた。
ーーーーー‥
『いつか、全てを思い出しても』
私の記憶が抜け落ちた、直接的な理由を
みんなは口にしない。
私を護る為の沈黙。
でもおそらく、
優花たちも話してくれた
“あの人”と
“灰田先輩”が鍵。
『アイツを信じてやって欲しい』
拓弥さんの言葉が
ぐるぐるぐるぐると頭を回っていた。

