片翼の天使



「お前、昔話は覚えてるか?アイツとお前の昔話」



ーー‥?



「もう10年も前の話だ‥


都心の公園に、珍しく真っ白な雪が積もった日だったそうだ。

アイツはコウと一緒に、鐘を鳴らすために外へ出たんだと。


そこに‥

透明な、雪に溶けてしまうんじゃないかってくらい透明な歌が‥聞こえたんだ。


アイツは、惹き寄せられるようにそこへ歩いた。



するとそこには‥



真っ黒な女の子が居たんだって。


アイツは、その真っ黒な女の子に“今度は僕のために唄って”って片翼を預けたんだと。


するとその真っ黒な女の子は、綺麗な笑顔を残して走り去ってったんだってさ」



知ってる。

途中まで知ってる。


やっぱり‥私が忘れてるのは“あの人”のことだ。



「俺らはずーっと聞かされてきたんだ。

真っ黒で真っ白な

“天使”の話‥」



海斗は、その茶色い瞳を‥とてもとても悲しく瞬かせた。



「本当に居るとは‥思ってなかったんだ」



それから、


出会った時のあの人

一緒に住む事が決まった時のあの人

初めて登校した時のあの人

学年選抜の時のあの人




そして‥




夏祭りの時のあの人





全部ぜーんぶ話してくれた。




私の胸はきゅぅぅんってとてもとてもとても苦しかった。


頭は相変わらずズキズキしてたけど、

今はもう‥胸が苦しくて、苦しくって‥


ただただ、溢れては流れる涙に乗せて

この締めつけられるような苦しみを


洗い流してしまいたかった。




そっ‥と頭を撫でながら、私を抱きしめる海斗。


少し。ほんの少し。




海斗からも、涙の嗚咽が聞こえていた。





-ーーーーーーー‥





この間まで、あの蒼い空を見上げていた向日葵。



今はもう、こうべを垂れて下を向く。




もう2度と

蒼い空を眺める事は

できないのかな‥