片翼の天使

その日の夜は1人だった。

優花も柚子も、目の下にうっすらとクマが出来ていたから

『帰ってちゃんと寝て?』

ってお願いした。


心配してくれたんだなって嬉しく思うからこそ、眠って欲しかった。

ゆっくりと‥。


私は、柚子の家から持って帰ってきた荷物を片付けた。


8人で行った夏祭り。楽しかったな。


ふふ。柚子ととったヨーヨーは、しぼんできてる。


それから

淡い桃色の浴衣と、“お揃い”の紺色の帯をタンスにしまった。


ーー‥お揃い?


私……、何か大事なコトを忘れてる気がする。



それに


机に置いてあった、このおっきなチョコレート。
海斗と颯斗と輪投げで勝負してーー‥



『上からかぶせるように投げんだよ』



ーーーーー‥え?



頭がズキンってなる。それに胸も。



ぐらん‥



身体が揺れて机にバンッと手をついたその時、



チリンチリンーー‥



1本のかんざしが、床に転がり落ちた。


黒猫と白い翼に、ピンク色の鈴。



私‥かんざしなんてつけてたっけ?



『コイツに鈴が付いてりゃ、迷子になんねーだろ』



まただ。


また、あの声。



私は

あの“蒼銀髪の男の子”を思い出した。




なんでだろ?


私が“忘れている”のは、あの人なんだって確信がある。



それは、みんなの言葉からも察することができた。


それに、昨日見せた悲しみが溢れるあの蒼い瞳。



胸がちくちくして、お腹ががきゅぅぅんってなるあの瞳‥



あの人のことを知りたい。


でも、片隅では知ってはいけないよって警告を出されてる。




ーーーまた矛盾。




会いたいと思った。
お話したいと思ったのに。



なんだろ‥この変な感じ。





もやもやうずうず‥

ドキドキズキズキ‥




相反する2つの感情が、私の胸を苦しく支配する。



私は、この感じを抑えようと水を飲みにリビングまで降りてきた。



すると



「眠れねぇの?」



電気のついていないリビング。

でも、外の光だけで充分 明るかった。



光に照らされて見えた橙色に近いその髪の毛は、キラキラしてる。


微笑んだ顔をくるんとこちらに向けたのは‥



ーー‥海斗。