「みーってさぁ」



登りかけていた階段に腰を下ろしながら、彼は私を探るように見る。



「オウジサマ達と一緒に住んでんだよな?」

「う‥ん」



その顔に見えるのは

怒り?

それともーー‥



「お前‥銀崎先輩が好きなんだ?」



なんでそんな悲しそうな顔をするの?



「銀崎先輩ってさ、ずっとずっと想ってる女の子が居ることで有名でさ」



え‥とーー‥それは



「今、同じクラスに居んだってよ」




ーー‥え?




「今までどんな女が寄ってきても突っぱねてた先輩が、

去年初めて“彼女”を作ったんだ」



「そりゃ大騒ぎだった」って、少し悲しそうに話す彼の言葉は‥

もう私の耳には入ってこなかった。




ーー‥どういう‥?

もはや、頭はぐるぐるを通り越して止まっていた。



でもひとつ‥ひとつだけ

頭に出てくる映像‥



黒髪サラサラの、

あのお姉さんーー‥






ーーーーーーー‥






『ここに居ろ』

『俺を求めろ』

『おいで』



『魅‥愛してる』







ねえ、蒼‥

“私”‥はなに?




“私”だと思ってた。

蒼が待ってた女の子は私だと思ってた。





勝手に。


ーーーー勝手に‥。







ーーーーーーー‥







空がしくしくと泣き始めた。




手を引かれて階段を登りきり、屋根のあるベンチまで来た私と彼。




街灯に照らされてゆらゆら見えた先客の影ーー‥



それは、





黒髪がサラサラした綺麗な女の人と、


蒼みがかった銀髪をした綺麗な男の人。




見えた2つの影は

唇が


1つに重なっていたんだーー‥