彼は、優花たちが言ってるような“悪い感じ”はしない。

むしろ、良い人なんだと思う。


だって、小さなみーちゃんが懐いてるんだもん。



「もいっかい!」

「いーよ。せーのっ」

「きゃーたかーい」



高い高いしたり
肩車したり

なんだかんだで私より仲良しかも。



「子供、好きなの?」

「あ?うーん。あんまり‥」



そう苦笑いする彼。

え‥こんなに遊んでるのに?



「なんていうかさ」



小さなみーちゃんを肩に乗せたまま、彼はニコッと笑って私を見た。



「小さい時の、みーに似てるんだよね」



小さい時の私?



「お前と俺は、数えるくらいしか会った事がないんだ」



きゃっきゃと笑う、小さなみーちゃんに“私”は重ならない。



「話したのは1回だけだし、お前が忘れてても無理ないか」



いつのハナシ?



「お前の親父さんが亡くなった日」



ーーーー‥え?



「7年前か?俺らが9歳ん時だ」







ーーーーーー‥







お父さんが、黄嶋家でお世話になってる私を見つけた日。



3年の月日が流れても変わらなかったあの人。



3年前と同じように私に触り、

3年前と同じように私を“奏”と呼び、

3年前と同じように私をーー‥




黄嶋家で警察に通報してくれる人なんていないはずだった。

でも、警察のおじさんは来た。



そして、その日の内に地獄に落ちたあの人。



こんのっ黒猫がっ!

魔性の黒だな。

不幸が移るわっ





深い深い闇の中。




『みー、笑って』




見えた一筋の光。





ーーーーーーーー‥







「よーちゃん?」


「なに?みー」



少し切なく
少し寂しげに

少し‥嬉しそうに


私と同じその真っ黒な瞳を細めてーー‥

彼は微笑んでいた。





「ありがとう」




ーーーわたし、


思い出したんだーー‥