「ひとり?」

「ううん。ふたり」



私は、小さなみーちゃんの頭を撫でながら答えた。

関わっちゃいけない。
そう決めたのに‥



「誰?」

「迷子」



会話をぶつ切る私。



「オウジサマ達は?」

「いるよ」



周りをぐるっと見回した彼は、女の子達に何かを囁いた。


女の子達は「えー?」って言いながら、渋々去っていく。

彼は、そんな彼女たちを手を振って見送ると

くるっとこっちを向いた。



「さて、みー?」



笑顔で近づく彼を、“怖い”と思った。


小さなみーちゃんは、手を繋いだまま私の後ろに隠れてしまった。

この感じがわかるのかな?




目の前まで来た彼は、
「ふ~ん‥」と言いながら、上から下まで私を眺めてく。



「な‥に?」



ヘンに声が強張る。



「可愛いね」



その真っ黒な瞳を細めながら、にっこり笑った彼。


その笑顔には、もう“怖さ”はなくって、あの時の‥優しくて切なげな表情だったんだ。




“可愛い”

蒼は言ってくれなかった言葉ーー‥




なんだか、少しだけ
ズキンってした。


浴衣‥似合ってなかったかな?


抱きついたら顔を背けて引き離そうとした蒼。


私を見ずに無表情で答えた蒼。


そして‥


私の知らない綺麗なお姉さんを知ってる蒼。



なんか、最後の方は当たり前なはずなのに‥

胸がちくちくする。



「みー?」



私の頭を撫でる彼。



「みーお姉ちゃん?」



きゅっと強く握る小さな手に、私はハッとなる。



「あ、私この子を本部まで連れて行かなきゃいけないから」



そう言えば、彼とは離れられると思った。

思ったのにーー‥



「俺も行くよ」



ーー‥え‥



「男が居る方が、色々と便利だろ?」



確かに。

小さなみーちゃんと歩き初めてから、

幾度となく軽そうな男の子に声をかけられた。


私は、優花や柚子みたいにナンパ慣れなんてしてないから‥

断るって言うより、無視を決め込んだ。


それも結構キツかったんだ‥。


男の子が居れば、ナンパなんて減る。



その彼の気遣いが、少しだけ‥嬉しいと思った。