片翼の天使



ざわざわざわざわ‥


気が付けば、いつの間にか周りには人だかり。

はたからみれば

ラブシーン‥みたいな?


聞こえてくるのは


「誰あの子っ」

「いやー拓弥さーん」

「拓弥様に抱きつくなんてっ」

「拓弥様が笑ってるわ」

「早く離れてくれないかしら」

「笑ってる姿も素敵ねぇ」



はい。

私への罵声と、

この有名らしき先輩の、ファンだと思われるヒトたちの声。



「あの、先輩?」



早く離して欲しくて、
早く教室に戻りたくて。

恐る恐る声をかければ、先輩は「ごめんごめん」って目尻を長い指で拭った。



私のすっぽかしが、泣くほど楽しいのかな?



「魅ちゃんがあまりにも正直すぎて、つい。くくっイマドキ貴重な子だよ?」



先輩はそう言いながら、私の猫っ毛な髪を、撫でるように耳にかけた。



「俺は紅澤拓弥(アカザワタクヤ)。覚えておいて?また会いに来るから」



ふわりと笑った先輩はやっと私から離れ、



「じゃーね」



って手を振りながら、3年生の校舎の方へ歩き去っていったんだ。