片翼の天使

保健室のドアが開く音がして、2人で目を向ける。



「あ、銀崎先輩」



入ってきたのは、明らかにご機嫌が斜めな蒼。

‥目が怖いデス‥。



「蒼?3年生はもう終わったんだ?」

「ああ」



低くそう言って、ドアにもたれかかりながらその鋭い目を“彼”に向ける。



「あ、俺は同じクラスの黄嶋っす!」



立ち上がって一礼した彼。

蒼ってやっぱり有名‥なのかな?



「じゃな、みー」



優しく笑いかけて頭をひと撫でした彼。



ーーーー‥え?





ーーーーーーーー‥





うわぁぁんあぁぁぁぁーー‥んーー‥


『みー大丈夫か?』


うぇっくひぃっく‥


『うちの親父もお前の親父も最悪だっ』


ひっく‥


『また、辛くなったら俺んとこに来い』


ーー‥うん。


『みー、笑って』


うんっ。


『じゃな、みー。』


じゃね、よーちゃん。





ーーーーーーー‥






「よーちゃん‥」

「魅?」

「みー!!!」



“彼”は、ベッドに座っている私をぎゅぅっと抱きしめた。



「覚えてるのか?覚えてるんだなっ俺をっ!!」



嬉しそうに笑うその顔‥やっぱり知ってる。



「離れろ」



低くご機嫌斜めな声を発した蒼が、私の体を後ろへと引き、その腕の中に閉じ込めた。



「あ、スイマセン。

みー、ゆっくりでいいから良い思い出だけ思い出して‥」



“彼”はまた、あの寂しげな笑顔を残して、外へと出て行った。





ーーーーーーーー‥






「魅‥」



耳元で聞こえる蒼の声は、すごくすごくご機嫌斜めで‥


抱きしめるその腕は、とてもとても強かった。



「魅‥っ」



蒼の唇が後ろから私の首筋を伝っていく‥。

鳥肌が立つほどゾクゾクする。



「ふ‥ぁ」



昨夜の熱を思い出し、また体の真ん中がきゅぅぅってなった。



「魅‥」



蒼がその綺麗な声でまた私を呼んだ時、

首筋にピリッと小さな痛みが走った。

そして、私をくるっと反転させると、今度は前からぎゅっと抱きしめ‥



「お前は俺のモン」



と、意地悪な笑顔を私に見せた。