ーーーー‥魅が‥

俺の手を取らない。


俺の胸は一気に“不安”の一色になる。


ーー‥なんで?



魅は昼休みから様子がおかしい。

ぽーっとしたり、

顔が赤くなったり。


5・6時間目なんて、ちゃんと教室にいたらしい。おかしいーー‥


蒼と魅が屋上で唄ってたのは知ってる。

うちのクラスの窓も開いてたし。


その歌声は、いつもより ほんのりと色が付いていて綺麗だった‥。



蒼と唄ったから?

蒼が想いを伝えたから?


‥魅も、蒼に応えようとしているの?



ーーーー‥っ



やだっ!

行っちゃ嫌だっ!


ーー‥魅っ



どこにも行って欲しくなくて

ここに居て欲しくって



ーー‥蒼へと気持ちが傾いている魅に

もう少しだけ、俺を見ていて欲しくて‥



いつもとは違う‥


強引で奪うようなキスをした。



息継ぎをするために少し開いた唇を割って入りーー‥


魅の全てが欲しかった。


魅に“俺”を見て欲しかった。


初めてだった。

幼なじみ以外で、俺の笑顔が偽物だと気付いたのは。


初めてだった。

こんなに心がゆらゆら揺れるのは。



崩れ落ちそうな魅を更に捕まえて

もう誰もいない下駄箱で、飽きることなく水音をたて続ける。




ーー‥ずる‥




どれくらいそうしていただろうか?

魅は、意識が飛んでしまったようだ。


無防備に俺の胸で眠る魅。



とてもとても

“愛おしい”と想う。



俺はもう1度、そっと唇に触れた。





ーーーーーー‥





今の俺のツバサ


左翼は蒼。

右翼は魅。



右翼はとてもとても愛おしくて、

ずっとずっと一緒にいたい。



でも、左翼は‥

ずっとずっと一緒にいた俺の兄貴。




ねぇ魅?


もし、もしもだよ?

蒼じゃなくて、俺を選んでくれたら嬉しい。


でも、魅の口から

“蒼が好き”

って聞いたらーー‥



ーー‥うん。

手を離す‥覚悟を、しておこう。


その言葉を聞く時が、
きっと来るから。



その時


俺は笑っていられるように。



‥覚悟をーー‥