パタン‥と、風呂場のドアが閉まる音がした。
「で?蒼、どういうコトかな?」
穏やかに問う拓弥の顔は、恐いくらいの笑顔。
「んあ?」
蒼が気のない声を出した途端ーー‥
ガッッ!!
海斗が蒼の胸ぐらを掴んだ。
「お前‥魅に何した」
「‥何も」
「嘘つけっ!何したかって聞いてんだよっ!!」
「やめろっ。海斗!
魅は優しい顔してただろ?嫌がらせや強要じゃねぇと思う」
海斗は蒼から離れ、蒼に背を向けて椅子に座る。
「だな。颯斗の言う通りだ」
ん~‥と考えてから、また拓弥は口を開く。
「もしかして、蒼。
お前‥魅ちゃんの気持ち、聞いたのか?」
他の3人がバッと素早く蒼を見た。
瞳をまんまるに開いて。
「いや」
低く響く声で一言、否定の言葉を発した蒼。
もう一度口を開く。
「ただ、“好きだ”って言っただけだ」
少しだけ
ほんの少しだけ
笑顔を見せたのは、
拓弥と颯斗。
バーーーンっ
勢い良くダイニングのドアを開け、海斗が階段を大股で登って行く。
「蒼‥」
涙が出そうなくらい揺れる大きな瞳で蒼を見上げたのは、洸一朗。
蒼みがかった瞳で
色素の薄いその大きな瞳を真っ直ぐに見据えながら、
「ごめんな」
と呟いた。
蒼は洸一朗の、金色でふわふわした髪を撫でた。
「俺‥も、魅が好きだ」
頭を撫でられているから、下にうつむきながら言葉を発する。
「あぁ」
「魅はまだ誰が好きなのか言ってない」
「あぁ」
「俺、負けない」
「あぁ」
ふっと優しい微笑を浮かべる蒼。
洸一朗も“本物の”笑顔になる。
「問題は、海斗だな」
ため息混じりに拓弥が言うと、
「だな」
颯斗が応える。
「俺が行く」
蒼がダイニングのドアを開け、階段を登り始めた。