「俺、名前言うの忘れちゃって。その上聞くのも忘れてて…」 彼が下唇に触れながら言葉を続けた。 声なんて電話と実際とじゃ違うし。 顔だってサングラスでわからない。 話は合ってる。 でも。 違う人に渡しちゃったら困るし。 さて、どうすればいいんだろ…。 困ったな…。 「…じゃあ、こうしない?」 困っているのがわかったのか。 彼が言った。 「俺が今から言う番号に電話してください。で、拾ったケータイが鳴ったら信用して」 彼はそう言って、唇の右端をあげて笑った。