彼は。

不機嫌全開の顔を全く変えないまま言った。





「…どっちも“俺”」





…いやいや。

それはわかってるよ。





『…そうじゃなくて』

「それより、柚はどうなの?」

『……え?』

「柚は今、どっちといるつもり?」





さっきまでとは逆に。

彼に見据えられる私。





真っ直ぐ見つめられる瞳に。

心の中まで見透かされてるような気がしてくる。





「…“モモ”?それとも“とーや”…?」





…ほら、あの顔。





水族館で見た。

公園でキスした後にも見た。

撮影の時にあの顔に心臓が波を打った。





目を細めて、意地悪そうに。

唇の端っこを持ち上げて微笑んだあの顔。





…ドクン。



あの表情に。

私の心臓は跳ね上がった。