それはまるで、おとぎ話のように始まったの。


「わー!」


とにかく購買に走らなきゃいけなくて、私はすごく焦ってた。


「紗月ー転けるなよー」

「わかってるーっ」


礼が済むと同時に駆けだしたのは良いけれど、少し長引いてしまった4時間目。


「どーして4時間目の先生って授業が長いのよぅっ」


文句をブツブツと声にしながら駆け下りていく階段には、障害物が多くって。


「頑張れ紗月ー」

「おうっ」


小さな身体をうまく使って、人波を縫うように走ってく。


「こらーっ走ってるのはまたお前かーっ」

「そうでーす」


怒られながら、応援されながら走る。これはもう名物。


「紗月ちゃーんラスト2だったよー」

「マジですか!ありがとうございますっ先輩」


あと2個か。
間に合えっ!!

先に見える人だかり。
そこに向かって思い切り叫ぶ。


「おばちゃーんっ!!」


小さい身体は見つけてもらいにくくって。


「紗月ちゃんかい?」

「まだあるー?」


人だかりの後ろからぴょんぴょんと飛んでみるけど、成長期真っ盛りの高校生たちはどうしても私の邪魔をする。


「おばちゃんっ」


身体が小さいのを有利に使って、下から潜り込むように前まで出たけれど。


「ごめんねぇ、紗月ちゃん」


見えたのは、寂しそうな顔の前で手を合わせるおばちゃんの姿だった。


「あぅ‥」





「紗月おかえりー」

「間に合った?」


陽気な友達2人に首を振ると、


「ドンマイ」

「また明日頑張れっ」


背中を痛いくらいにバシバシと叩かれ慰められる。


「あーなんでこう、4時間目の先生って‥」


ブツブツといつものように同じ事を繰り返し呟いていた私。


「あはははははっ」

「さーつきぃ」


いきなり爆笑を始めた2人。


「なに?」


不思議に首を傾げる。


「上履きはぁ?」

「かたっぽないしっ」

「あ‥」


左足……どこ行った。


「マジうけるし」

「やっぱ紗月だよねー」

「あう‥探して来ます」


うなだれ気味にドアを開けたその時、


「あんたが“紗月”だよな?」

「は?」