『中林さんをご存知?』
園長さんはニッコリと言った。
笑うとタレ目がもっと垂(タ)れて……
本当に優しそう。
『中林グループの社長さんですか?』
『ええ。 縁あって、こんな小さな施設にまで寄付して下さったんですよ』
「縁あって」
その言葉がちょっと引っ掛かるけど、今はそれが目的じゃない。
輝の事を聞かなきゃ。
『あの、ヒカルっていう男の子を知ってますか?』
『ヒカル……? 何をしてらっしゃる方?』
何をって……
こんなおばさんにデリホスなんて言葉が通じるかな。
もっと伝わりやすい言葉は……
『女の人から呼び出され、デートしたり食事したりするのが彼の仕事です』
こんなんでどうだ!?
『出張ホストというやつね?』
つか、知ってんじゃん!
せっかく考えて答えたのに!
『それで…… 彼を知ってどうするのかしら』
……え?
何かちょっと、顔つきが……
急に怖くなったよ?
『昔の彼を知りたい。 それは貴方の自己満足かしら?』
この人、輝を知ってる。
輝の過去を知ってるんだ。
『輝が、私に言ったんです。 自分が誰だか当ててみろって』
『まぁ、輝くんが?』
「輝くん」って……
やっぱ絶対知ってるんだよ。
それに、輝って名前は本名だ。
源氏名であり、輝の本名。
『苗字は……教えてもらえないですか?』
あと苗字さえわかれば、フルネームが完成する。
輝との勝負も終わるんだ。
なんだか呆気なかったけど、やっと終わる。
もう付き纏われる事も、迫られる事もない。
……っていうか、輝って負けたらどうなるの?
私の前から消える?
そんなの、望んでないけど……
『苗字は教えられませんよ』
『え……?』
『本人の許可無しに、教えられません』
はっきりとした口調で答える園長さん。
正直、この答えは予想してなかった。
軽いノリで答えてくれるんじゃないかって思ってたから……
【誰にも勝てないよ。 このゲームだけは】
本当だね。
あんたには本当に勝てない気がしてきたよ……

