ベランダから入り込む風にカーテンが揺れる。
真っ白のカーテンは雑然とした都会の景色を消し去り、非現実的な空間を作り出した。

【ど…ドロボッ――】

叫ぶ一歩手前。
男は私の口許に人差し指を立てると、ニッっと不敵に笑う。

まるで外国の子供のように端麗で愛らしい容姿に、私は口をつぐんだ。

【ごめんね? 玄関回るより早いと思って】

悪戯な笑みは天使にも悪魔にも見えた。

ここは3階。
ベランダから来るのだって命懸けのはず。

どういう神経してんの?

【ここ、壁うっすいよねー】

コンコンと壁をノックしてみれば、何故か空洞を叩くような軽い音。
もしや手抜き工事?

って、そんなのはどうでもいいんだってば!

【とにかくッ うるさくて迷惑なの! 時と場所考えてヤッてよね!】

深夜は避けるとか、昼間は声を出さないとか。
とにかく色々と遠慮してほしいんだって、私は奴を怒鳴り付けた。

【ってか1日中、家にいるみたいだけど学校とか仕事行ってないわけ? 大体――

確かに私が悪かったと思う。
少し言い過ぎた。

だけど、だからって…

【んん…ッ】

無理矢理にキスするなんて、どうかと思う。
初対面。
しかも名前も知らない人とキスなんて嬉しいわけがないよ。

【ご馳走様】

悪戯っ子の少年。
男はそんな顔を見せる。

そして奴はチラシを残し去っていったのだ……







《ピンポーン》

…智志が来たのだろう。

『今開けるからー』

私は玄関に向かいそう言うと、傍にあったチラシをグシャグシャに丸めゴミ箱の奥深くに突っ込んだ。