智志が来る前に部屋を綺麗にしておこう。
掃除機かけて、ベッドのシーツ伸ばして……
一応、メイクも直しておこうかな?

シーツのシワを手で伸ばしながら、同時にベッド上の窓を開けて換気する。
迂闊(ウカツ)にも窓際に並べてあった写真たてを肘(ヒジ)で落としてしまった。

『げー……ホコリ』

救い上げた写真たてには暑さ5mmのホコリ達。
どんだけ不精(ブショウ)なんだ私。

よく見ればカーテンレールの上もホコリ。
見なかった事にしよう。

写真たてを戻し、フッと笑みが漏れる。
写真の中に映る少し前の自分と智志が可笑しかったからだ。

メイク薄いし私。
智志、今より断然イケてるし。
付き合ってから気ぃ抜いてんじゃないの? あいつ。

『……ッは…あぁ…ッ!』

あ、また始まった。

『んんー…ッ』

壁一枚向こう。
デリホス野郎の部屋。

さっきもこうして声が響いてきたんだ。
だから私……









【もうッ 我慢出来ない!!】

3日程前。
今まで空室だった隣に入居者が現れた。
角部屋の私にとって、初めてで唯一の隣人。

どんな人だろう。
やっぱ私、一人ぐらしだしー?
イケメン希望ー…なんてね。

ところがその隣人。
朝昼晩、関係なしにエッチする。
隣人が喘いでんのか喘がせてんのか知らないけどさぁ。
何だか壁薄くって、声聞こえまくり。

智志とか友達来たら気まずいっての。

【迷惑だっつーの!! 昼間っからアンアンうるさいっての!】

壁が抜けるかも、ってぐらい蹴ってやった。
最初は聞いてて面白かったけど、3日聞いたら飽きるし。

【次、声出したらクレーム出しに行くからね!】

大声出したらスッキリーって感じ?
やっぱ溜めてちゃ駄目だよね。

高笑いでもしちゃいたい気分!

【…おいコラ】

……え?
低い男の声。
玄関からじゃない。
私の…背後から…

【文句なら直接言わないとわかんねーんだけど】

振り返った私の目に飛び込んできたモノ。
それはベランダをつたって侵入してきた顔も知らぬ男の姿だった…