柔らかい唇の感触。
鼻をくすぐるのは、甘くとろけるようなコロンの香り。

触れた手は大きく、硬い骨が扇状に広がった男の手。
初対面、それもほんの数分しか会ってない男。

濃厚なキスのせいか。
それとも綺麗な顔のせいか。
私の頭から消える事は無かった。



『Sweet Lover……ねぇ』

聞いた事もない店名。
どうやらデリバリー式のホストクラブみたい。

何々?
「気に入ったホストへ直にメールを送っての御取引となっております」だって?

なるほど〜……
実店舗を持たないネット内のデリホスか。

『……なーにやってんだか私』

こんなんじっくり見ちゃってる私。
相当ヒマなんじゃん?


ってか初対面でいきなりキスってどうよ?
いくら私が悪いからってさぁ。
って、私が悪いの?
私、あいつに何かした?

し、したのかなぁ……

《〜♪〜♪》

あ、電話だ。

『もしもーし』
《あー彩香(アヤカ)? 今、何しとる?》

受話器の向こうは何だか騒がしい。
ワイワイガヤガヤ。
アナウンスみたいな声もする。

『うちでボーとしてた。 智志(サトシ)は? 外にいるでしょ』

駅かな?
何だか駅のアナウンスみたいな感じ。

《うちの近くの駅。 暇なら綾香んとこ行っていー?》

智志が来る。
この部屋へ。
ついさっきまで、デリホスがいたこの部屋へ。

罪悪感というものが無い事に私自身もビックリだった。

『うん、待ってるー』

まぁ、事故みたいなもんだし。
仕方ないかなー…