1日1日がこんなにゆっくり進むなんて初めて知った。
輝との約束の時間まで後、一時間ほど。
この仕事を終えたら、着替えて……と。
『真白さん。 これ……』
終業時間が近づいてきた頃、同じ部署の先輩が書類を持ってきた。
それは先日、私が作って提出したものだ。
『足りない箇所がいくつかあるんだよね。 それを直してもらえないかな』
『は、はい』
『できれば今すぐ、今日中に』
……え?
今日中なんて……
『そんなに急ぎのものですか?』
『そうなの…… 明日の朝イチには使いたいから』
そんな……
輝との約束の時間に間に合わないかも。
だけど、先輩の顔が凄く困ってる……
『わかりました。 仕上げて帰ります』
今まで現場の仕事で、休んだって代わりはいくらでもいた。
だけど、それじゃ輝に追い付けないと思ったから。
責任のある仕事をしたいと頼んだのは、私……
だから……
仕方ないんだ……
『ぉ、終わった~』
ようやく作業を終え、後は印刷待ち。
周りの人は帰っちゃったし、紙が擦れるような機会音が不気味……
携帯を開くと輝からメールが一件入っていた。
しかも2時間も前のものだ。
『え? アパートで待ってるって……』
部屋なんかもうないのに……
待てよ。
あいつの事だから、大家さんに頼んで私の部屋に入れてもらってるかも。
どちらにしろ早く帰らなきゃ!
印刷が終わり、まだ熱いままの書類をホッチキスで止める。
あとは主任の机に置いておけば……
《~♪~♪》
電話だ。
相手は……
『輝!?』
《お疲れ様。 今仕事中?》
聞き慣れた声に、今までの疲れが吹き飛ぶかのよう。
早く、会いたい……
《ごめん。 あまり時間取れなくて、もう新幹線待ちしてるんだ》
『……え?』
何それ。
もう帰ってしまうって事?
《本当にごめん》
こんな沈んだ声、輝らしくない。
輝は悪くないのに。
『違うの…… 私が早く終われなかったから』
ああ、もう嫌だ。
こんなの嫌だ。
『輝は……何も悪くない……』
目頭が熱くなって、涙が止まらない。
鼻も詰まってきたみたいだ。
《早く、綾香を養えるくらいになりたいよ》
そんな私を気遣ってか、苦笑気味に言う輝。
《この間まで隣人だったのにな》
馬鹿。
「この間」じゃないよ。
もう何ヵ月も前だよ。
《これじゃ、愛想つかすよね》
あの頃は、壁1つしか遮るものがなかったのに……
今はもう遠すぎて、受話器を通した会話しか出来ない……

