輝が隣にいる時間は、あと3日しかなかった。

だけどその3日が駆け抜けるように早く過ぎていく。

あんなに長いと思った1日が、こんなに早く感じられるなんて……

時間って何で思い通りに動かないんだろう……



『新しい門出を祝い……かんぱ~い!!』

最後の夜、咲耶に呼ばれBitter Sweetへ行くと、沢山の料理と沢山のホスト達がグラスを片手に立っていた。

お店はほぼ貸し切り状態……

『ほら、輝も持って』

咲耶はそう言ってグラスを渡し、ワインをつぐ。

『皆が輝の新しい門出を祝いたいそうだよ』
『皆?』
『そうさ。 この店の君の後輩達だよ』

若いホスト達を見渡し、照れ臭そうに笑う輝。

輝は前、皆に好かれてないはずだと言った。
そんな事は絶対にない。

この人達の顔は、本当に輝を好いて応援してくれている顔だもの。


輝の選んだ新しい道の成功を誰もが願っているよ……




『……飲み過ぎ。 大丈夫なの?』

アパートに帰りすぐベッドに倒れ込む輝に正直溜め息が出た。

『大丈夫。 上着だけかけといて』

枕に顔を伏せ、ボソボソと話す。

これが最後の夜かと思うと、輝らしくて笑えてくるよ。

本当に最初から最後までいい加減な人なんだから……

辺りを見渡すと、部屋には何もなかった。

日用品も調理道具もない。

あるのは、後日業者が処分しにくるのだと言っていたベッドとテーブル。

そして不要品の入った段ボールだけ。

それ以外は、先に送ってしまったらしい。

広くなった部屋を見ていると、明日からの生活が不安になってくるよ。


そんな私の気持ちを察したのか輝が手を伸ばし、私の腕を掴んだ。

『今日くらい泊まっていけよ』

お酒で上昇した体温が伝わる。

『……うん』

最後の夜は、輝の腕の中で過ごす。
だけど目覚めた時、きっともう隣にいないんだろう……

『あまり会えないかもだけど、毎晩電話するからな』
『うん……』


明日から、2人にとって新しい毎日が始まる……